有限会社の事業承継などのために株式譲渡を検討している方は少なくないでしょう。有限会社は株式会社と同様に株式を譲渡することが可能です。
しかし、有限会社の場合は株式の譲渡制限があり、株式会社の株式譲渡の流れとは異なります。そのため有限会社が株式譲渡を行う際には、注意点を抑えて手続きを行う必要があります。
本記事では、横浜市に有限会社を登記している経営者へ向けた株式譲渡の流れやメリット、注意点について詳しく解説していきます。
Contents
有限会社とはどんな会社?
有限会社とは、株式会社や合同会社などと同じ法人格として使われている会社形態の一つです。2006年5月1日に施行された会社法によって、「有限会社」という法人格での会社設立を行うことができなくなりました。
新たな会社法が施行される前は、有限会社法にのっとっていれば、有限会社として会社を設立することが可能でした。有限会社の特徴は以下の通りです。
・従業員数が50人以内
・取締役会や監査などの制限を受けにくい
・取締役などの役員の任期に制限がない
・決算公告の義務がない
法改正以前は、株式会社を設立したくても、1,000万円以上の資本金が準備できないと手続きをすることができなかったため、会社形態を有限会社にして手続きを行うパターンが多く見受けられました。「資本金は300万円以上」や「従業員数が50人以内」などの制限がありますが、家族経営や個人事業のように小中規模の事業を行う場合は、有限会社での会社設立が適していました。
2006年の会社法施行により、会社設立の要件が緩和され、誰でも会社設立を行える環境を整備することができました。そのため、株式会社と有限会社の区別する境界線があいまいになったことで、有限会社の制度自体が廃止になった背景があります。
今では、有限会社での設立自体ができない為、珍しい会社形態ですが、当事務所のクライアント様にもいらっしゃいます。
現在は「特例有限会社」として存続している
新たな会社法が施行されたことで当時の有限会社には、2通りの選択肢が与えられました。
1つは、有限会社から株式会社へ会社形態を移行することです。もう1つの選択肢は、有限会社として存続することです。
2つ目の選択肢である有限会社の存続を選ぶことで、特例有限会社として会社経営を続けることができますが、法律上は株式会社の一形態として扱われることになるので認識に間違いがないように注意しましょう。
特例有限会社と株式会社の違い
法律上は株式会社の一形態として扱われる有限会社ですが、会社の特徴などは変わりません。有限会社と株式会社の違いを下の表にまとめたので確認しましょう。
特例有限会社 |
株式会社 |
|
最低資本金額 |
300万円 |
1円 |
従業員数 |
制限なし ※以前は50人以内 |
制限なし |
取締役会の設置 |
不可 |
任意 |
取締役の任期 |
なし |
2年(最大10年) |
会社の上場 |
できない |
できる |
監査機関 |
監査役のみ設置できる 会計参与と会計監査人は設置できない |
監査役・会計参与・会計監査人を設置できる |
決算公告義務 |
なし |
あり |
2006年に施行された会社法を組み入れたうえで、従来の有限会社の仕組みを引き継いでいるのが、特例有限会社の特徴です。
有限会社は株式譲渡できるのか?
ズバリ、有限会社であっても株式を譲渡することが可能です。ただし、有限会社には株式の譲渡に関して制限が設けられているため、株式会社の株式譲渡とは手続きが異なります。
特例有限会社は、譲渡制限株式会社として扱われています。譲渡制限株式会社とは、会社の定款に株式に関する定めが記載されていなくても、株式譲渡制限が定められている株式会社のことです。
譲渡制限について改めて説明します。譲渡制限とは、会社の承認を得ない株式の第三者への譲渡を制限することです。会社にもよりますが、株式会社などの定款に株式の譲渡制限について定めていることがあり、第三者に株式を譲渡したあとの会社経営への影響を及ぼすことを避けるための対策として講じられています。
株式譲渡制限が定められている場合は、会社や事業を第三者へ譲渡しようするときや後継者などに会社の経営権を引き渡すときに会社の承認が必要です。
会社の承認とは、取締役会を設置している会社であれば取締役会、取締役会を設置していない会社は株主総会で承認が必要になります。特例有限会社は取締役会を設置できないため、株主総会の承認が必要ですが、承認機関を株主総会以外に規定する旨を定款で定めることが可能です。
参照:会社法 139条
例えば、株式譲渡に関する会社の承認は代表取締役が行う旨を定款に記載して定めた場合は、株主総会での承認が不要になります。
しかし、会社法などについて知識が少ないと会社の承認についてどのように対応すればいいかわからないという方がほとんどでしょう。対応がわからなかったら、有限会社の譲渡に関して多くの件数に対応している当事務所が、最適な方法を提案して一緒に手続きを行わせていただきます。
関連記事:会社設立時の持ち株比率と権利について解説
特例有限会社の株式譲渡の流れ
特例有限会社が株式譲渡を行う場合、事前に定款の変更や株主総会の承認などを行わなければなりませんが、実際の手続きについては株式会社の手順とあまり変わりはありません。流れについてひとつひとつ確認しましょう。
①株式の譲渡承認請求
特例有限会社の株式譲渡を行う際は、はじめに譲渡承認の請求を行います。前述したように特例有限会社は株式の譲渡制限があるため、第三者への譲渡制限株式の譲渡承認を受ける必要があります。
譲渡承認請求は、株式の種類や株数、譲渡する相手の名前を記載した書類の提出が必要になるため、事前に書類の準備を行います。
②請求から2週間以内に株主総会または定款の定めに則った請求の承認と通知
会社の承認は、株主総会で株式譲渡について承認を得ることができれば、手続き完了となります。もしくは、株主総会以外での承認方法を定款に記載している場合は、定款に記載している承認方法で手続きを行うことが可能です。
株主総会以外で承認をしたいと検討している方は、どのような方法が適切か事前に専門家へ相談しましょう。
③株式譲渡の契約締結
会社で株式譲渡の承認を得ることができた後は、譲渡側と譲受側で株式譲渡の契約締結を行います。契約締結では、株式譲渡契約書の作成が必須であり、主な記載事項は以下の通りです。
・譲渡価格
・譲渡目的
・支払方法
・誓約事項
・損害賠償や補填について
一般的な契約書面には収入印紙が必要ですが、株式譲渡契約書は課税文書に該当しないため収入印紙は不要です。
④株主名簿の書き換え
会社の承認・株式譲渡契約書の締結が完了したら株主名簿の書き換えが必要です。株主名簿に名前が記載されていないと、株主として認められず、株主総会などでの発言権や決定権がない状態になるため、株主名簿の書き換えには細心の注意を払いましょう。
売却価格の算出方法
特例有限会社は上場企業ではないため、株式を譲渡する際の価格を算出しなければなりません。算出方法は主に3つあり、特徴などについて解説していきます。なお、かなり専門的な内容になりますので、なんとなく頭に入れて頂く程度で良いかと思います。
コスト・アプローチ
コスト・アプローチは特例有限会社の純資産に基づいて売却価格を算出する方法です。「純資産方式」とも呼ばれ、会社の貸借対照表の資産から負債を差し引いて純資産を算出します。純資産に基づいて算出するといってもその方法も2種類あります。
‣時価純資産方式
貸借対照表に計上されている帳簿価格を時価に換算し、負債の時価を控除して純資産の価値を計算する方法。評価益に対して法人税などの税金を控除する方式と控除しない方式があるので、専門家に相談しながら進めていく必要があります。
‣簿価純資産方式
貸借対照表の純資産に基づいて計算する方法。簿価純資産方式は、簡単な計算によって価格を求められる手軽さがある一方で、帳簿価格との差が大きいと現実とは乖離した価格になるといった側面もあります。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチは「収益方式」とも呼ばれており、特例有限会社がこれから事業を行っていくうえで見込まれる収益を基準として算出する方法です。具体的な方法は3種類あります。
‣DCF方式
インカム・アプローチの中で代表的な方式が、DCF(Discounted Cash Flow)方式です。DCF方式とは、譲渡対象となる会社の事業計画に基づいて設計したキャッシュフローをリスクなどを反映した割引率で割り引いて評価する方法です。
‣収益還元方式
収益還元方式とは、譲渡対象の事業計画に基づいて推測した利益を、割引率や資本構成の変化などを織り込んで現在の企業価値として算定する方法です。
計算をするときは、現在の利益が継続して発生することを仮定し、資本金の調達費用などから算出した割引率で「加重平均コスト」を使用するのが一般的です。
‣配当還元方式
配当還元方式は、将来受け取る予想配当を資本還元して算定する方法のことです。そのなかでも、過去の配当実績から予想される「実績配当還元法」や、同じ業種の配当金の平均金額から予想される「標準配当還元法」などがあります。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、同業種や譲渡対象と類似している上場会社など、株式市場での市場価格に基づいて企業価値を評価する方法で「比準方式」とも呼ばれています。マーケット・アプローチは、市場や株価など指標とするものによって3種類の方法があります。
‣類似会社比準方式
類似会社比準方式は、文字通り、譲渡対象となる会社の業種や規模などから類似する企業を選択してその会社の株価や財務状況などを基にして企業価値を算出する方法です。ただし、類似しているからと言って譲渡対象の会社とは異なるため、選ぶ企業によって譲渡対象の会社の企業価値が変動する点は注意が必要です。
‣類似業種比準方式
類似業種比準方式は、先ほどと同様に譲渡対象の会社と類似する業種の企業株価を基にして、「純資産価額」「利益金額」「1株当たりの配当金額」を比較して企業価値を算出します。
‣取引事例方式
取引事例方式は、過去に株式が売買されたことがあった場合の価格を参考にして、企業価値を算出します。
株式譲渡をするメリット
株式譲渡を行うことでどのようなメリットがあるのか、株式譲渡で悩んでいる方はメリットを踏まえたうえで、手続きを行うか判断してください。
事業承継が可能になる
株式譲渡によって、事業承継が可能になります。
会社経営を続けていくうえで、頭を悩ませるのが後継者問題です。現代でも問題視されていますが、株式譲渡をすることによって今まで大切に作り上げてきた事業・会社を引き継ぐことができ、今後の発展も期待できます。
近年、横浜市でも事業承継が活発になってきており、これからは、より身近なものになっていくのではないでしょうか。
関連記事:個人事業主の名義変更手続きの方法!親から子へ事業承継を行う際の注意点
従業員を継続雇用することができる
株式譲渡を行い、事業承継が可能になったことで会社の資産だけでなく、従業員の雇用も譲受側の会社へ引き継がれます。
譲渡する側の会社で従業員の将来について不安になることがなく、従業員側も事業承継後の株主の構成が変わるだけなので働く環境に大きな変化がないため、負担になることがありません。
雇用は継続されることが一般的ですが、人事制度などについては譲受側の方針に変更される可能性があるので、注意が必要です。
取引先との関係継続
提供している商品やサービスなどで使用される原材料などの仕入れ先との関係継続はとても重要です。株式譲渡の場合は基本的に売買契約は継続されるため、取引関係も継続することができます。
ただし、契約内容の条項によっては契約が解除される危険性もあるため、事前に契約に問題がないか確認する必要があります。
株式譲渡の注意点
株式譲渡を行う場合は、様々な視点から注意が必要となるため、事前に確認をする必要があります。以下の項目について、問題がないか、対策を講じる必要があるのかなど熟考しましょう。
・譲渡後には経営方針が大きく変更される場合もある
・従業員の待遇や処遇については十分な配慮が必要
・顧客や取引先との関係が悪化する可能性がある
・株式譲渡は、損益通算や時価の計算があり手続きが複雑
横浜市|株式譲渡のご相談は当事務所へ
株式譲渡の流れやメリット、注意点について解説しましたが、理解が深まりましたか?
実際に株式の譲渡を検討した際に、「手続きが面倒」「会社を手放したいけど1人でできるか不安」と感じる経営者の方が多いでしょう。少しでも株式譲渡を検討されている方は、どのような点が不安なのかお話を聞きながら、どのように手続きを行うかしっかりと説明させていただきます。
私たちが手続きの最後までサポートさせていただくので、まずはお気軽にご相談ください。
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