個人事業主として事業を展開している方は、自身の子や親族、信頼できる従業員などに事業を代替わりしてほしいと考えている方も多いのではないでしょうか。
事業承継を検討している方の中には、「名義変更の手続きをして終わりでしょ」と思っている方もいるかもしれません。しかし、そのような認識の場合、手続きや税金などで余計な手間や支出が増えてしまうため、流れをしっかりと理解しておく必要があります。
本記事では、名義変更を行う際の手続きの流れや事業を承継する際にかかる税金について解説していきます。個人事業主で今後の事業について悩んでいる方は、是非参考にしてください。
Contents
個人事業主が名義変更を行うタイミング
個人事業主が名義変更を行うタイミングは、大きく分けて2つあります。タイミングとどの様な手続きが必要か確認してください。
事業承継や代表者を変更するとき
個人事業主は、法人のように大々的な役職があるパターンが少なく、前々から後継者がいるわけではない場合が多いです。そのため、代表者の年齢や個人的な理由によって、次の人に事業を承継してほしい、代表者になってほしいといった場合は、名義変更が必要になります。
所得税は個人に対して課せられているため、前任者の廃業と新代表者の開業の手続きと税務署へ書類の提出が必要になるため、覚えておきましょう。
結婚をしたとき
結婚をした際に、名字が変わることがありますが、そのような場合は名義変更が必要です。名字などが変更になった場合は、特に税務署に提出する書類はありませんが、結婚に伴って住所変更がある場合は、税務署への届け出が必要になるため、この違いについてはしっかり認識をしましょう。
結婚をして名義変更が必要になる場合は、個人事業主に限らず、居住している役所への届出や免許証の変更など、一般的な手続きが必要になります。
名義変更に必要な手続き
個人事業主の名義変更を行う場合は、名義変更をしたタイミングで税務署へ届出が必要になります。名義変更に伴う手数料などの費用は発生しません。
名義を誰に変更するのかによって、手続きや書類が異なる点があるため注意が必要です。
親から子へ事業承継に伴う名義変更の場合
親から子へ事業承継を行う場合は、親と子のそれぞれで事業の廃止と開業の手続きが必要になります。
また、親から子へ資産を引き継ぐ際は、生前であれば贈与、死後であれば相続となるため、子から贈与税または相続税の申告・納税の手続きが必要です。
親から子へ事業承継を行う際の必要書類や期限、管轄などについて詳しく紹介します。
・親(前任者)の場合
親である個人事業主が事業承継の手続きを行う際には、以下の書類が必要です。
管轄 |
必要書類 |
期限 |
所轄の税務署 |
個人事業の開業・廃止等届出書 |
事業廃止日から1か月以内 |
事業廃止届出書 ※売上が1000万円以上で消費税の課税業者の場合 |
事業廃止後速やかに行う |
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給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 |
事業廃止日から1か月以内 |
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所得税の青色申告の取りやめ届出書 ※青色申告を行っている場合 |
事業を廃止する年の翌年3月15日まで |
|
都道府県 |
事業開始(廃止)等申告書 |
事業廃止日から10日以内 |
・子(後継者)の場合
子が事業を代替わりして行う場合、開業という手続きになるため、以下の書類の準備が必要です。
管轄 |
必要書類 |
期限 |
所轄の税務署 |
個人事業の開業・廃止等届出書 |
事業の開始日から1か月以内 |
消費税課税事業者選択届出書 |
事業を開始した日の属する課税期間の末日まで |
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消費税簡易課税制度選択届出書 |
給与等の支払い事務を行う事務所の開設から1か月以内 |
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給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 |
事業の開始日から1か月以内 |
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青色申告承認申請書 |
青色申告で申告を行う年の3月15日まで |
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青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 |
青色申告専従者の給与額を経費に算入する年の3月15日まで |
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源泉所得税納期の特例承認に関する申請書 |
特に期限は設けられていない。(原則として、書類を提出した日の翌月に支払う給与等から適用) |
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都道府県 |
事業開始(廃止)等届出書 |
事業の開始日から10日以内 |
上記書類の準備のほかに、管轄のハローワークで労災保険や雇用保険などの労働保険に関する手続きや年金事務所で社会保険についての手続きが必要になります。
また、承継する業種によっては、事業を行うために所轄の都道府県知事からの許認可が必要になる場合もあるため、許認可の有無や申請書類の確認も行いましょう。開業の手続きを行う際は、必要書類が多く、作成と申請に時間を要するため、余裕をもって準備を行ったり、税理士などの専門家に相談した方が効率よく進む可能性があります。
従業員などの他人に名義変更を行う場合
個人事業主から子ではなく、家族ではない雇用している従業員などの他人へ名義変更を行う場合は、上記の「親から子へ名義変更を行う場合」と同様に、事業の廃止と開業の手続きが必要になります。
異なる点としては、個人事業主に代替わりをした際の資産についてです。
個人事業主から他人へ資産を引き継いだ場合は、贈与となり、子が引き継いだ時と同様に贈与税が発生するため、税務署への申告・納税が必要です。
また、引き継いだ資産を売却するケースがありますが、売却した場合は、売却者が所得税または消費税を申告する必要があるため、税金の申告や納税はしっかり行いましょう。
事業承継の方法
事業承継の方法は、資産をそのまま引き継ぐ贈与という方法と、資産を売却するといった方法があります。それぞれの方法を分かりやすく説明していきます。
贈与の場合
親から子へ事業承継を行う際は、贈与が一般的な方法になります。
贈与とは、無償で資産を譲渡する方法になるため、資産を引き継ぐ側に負担がなく受け取ることが可能です。
しかし、贈与を行う際に注意点もあるため、注意するポイントを押さえて手続きを行うことが必要です。
贈与税は、1年間で110万円までが非課税と定められているため、110万円を超えてしまうと贈与税が発生します。贈与の税率は以下の通りです。
<特例贈与財産用>(特例税率)
この早見表は、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限ります。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
4,500万円以下 |
4,500万円超 |
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除税 |
‐ |
10万円 |
30万円 |
90万円 |
190万円 |
265万円 |
415万円 |
640万円 |
参照:国税庁 「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
贈与税は、3,000万円以下の場合、税率は45%となりますが、相続税の場合は、同様の金額で税率は15%となり、贈与税の方が税率が高くなるため、税金を多く支払うことになります。税金の負担をできる限り減らしたいと思っている方は、節税対策のために税理士に相談しましょう。人によって対策や方法などが変わってくるため、最善の方法で代替わりができるように工夫を凝らしましょう。
また、贈与は、プラスになる資産からマイナスになる資産を差し引いた資産に対して贈与税が発生します。そのため、資産がマイナスの場合は、税金を支払う必要はありませんが、一般的な事業承継になるとプラスの資産の方が多いため、贈与を行う場合は事前に前もって準備が必要です。
売却の場合
売却は個人事業主から親族ではなく、第三者へ事業を承継する際に使われることが多いです。
売却とは、事業を承継する人に対して、事業資産を売却する方法のことを指します。贈与を行うより簡単と感じる方もいるかもしれませんが、売却には多額の資金が後継者側にあることが前提となります。
業種によって必要な金額は異なりますが、事業の承継となると予想以上の金額が必要になるという点と、売却によって得た利益には所得税が課せられます。そのため、個人事業主と後継者のどちらの視点でも、金銭面での負担が大きくなるため、あまり現実的な方法であるとは言えないかもしれません。
事業承継の際にかかる税金
事業承継の方法によって発生する税金の種類は異なります。どの様な場合にどの税金が発生するのか覚えておくことで、どのような対策が必要になるかが分かります。
事業の承継を検討している方は、どの税金が課せられるのか理解しましょう。以下より、各税金について記載します。
贈与税
親から子へ事業承継を行う際は、事業に関する資産を無償で譲渡することになるため、贈与税が発生します。
事業に関する資産から、債務を差し引いた金額で税率が変化します。事業の資産と債務の具体的な例は以下の通りです。
事業の債務:借入金・買掛金・未払い金
贈与税は年間で110万円までは非課税となっているため、贈与を行う資産が多い場合は長期間をかけて贈与を行うことで税金対策を行うことができます。
所得税
事業用の資産を第三者などに売却した場合には、所得税が発生します。譲渡所得としてその他の住民税などがかかる場合もあるので、どの税金を支払えばいいかなどは税理士に相談して解決しましょう。
消費税
消費税は原則、2年前の年間売上高が1,000万円以上の場合に課税されます。しかし、生前の贈与か相続であるかによって変わってくるので注意が必要です。
贈与の場合は、原則として開業後の2年以内は消費税の納付義務はありません。一方で、相続の場合は、親の2年前の課税対象となる年間売上高をもとに、納付義務の有無を判定する必要があります。そのため、相続の場合は1年目から消費税の納付義務が発生する可能性があります。
相続税
親の死後に事業を承継する場合は、事業用の資産の金額に対して税率が定められており、相続税が発生します。
相続の場合は、相続する金額にもよりますが後継者の負担が増加する場合もあるため、注意が必要です。
関連記事:会社設立が相続税対策に有効?メリットとデメリットを解説
親から子へ名義変更を行う際は、税理士へ相談
今回の記事では、個人事業主が、親から子へ名義変更を行う際の流れや税金についてまとめました。承継する方法によって発生する税金が異なるため、事業承継の税金は少々複雑になります。
これから名義変更を検討している方は、手続きに時間を要する可能性があるため、誰にどの様に事業を代替わりしたいのかという点を税理士に相談しておくと円滑に行えます。
当事務所は、横浜市を中心に税務に関するサポートを3ヶ月無料で行っているため、判断に迷っている方は、是非お気軽にご相談ください。