
人材派遣業は、これまでの経験や人脈を生かすことができ、どの業界でも人材不足とされているなかで将来性のある業種です。
ただ実際に人材派遣業を経営するためには、資格や許可を取得する必要があり、事業を始めるまでのハードルが少し高くなっています。
本記事では、人材派遣会社をするために必要な資格や許可、事業を始めるまでの流れについて解説します。

Contents
人材派遣業とは?
まず人材派遣業とは、自社で雇用している労働者を他社へ派遣する事業をいいます。労働者の所属は派遣元の事業者になるため、保険や給与などは派遣元の業者から支払われます。社会保険などは派遣元ですが、実際に働くのは派遣先の事業者となります。
派遣元の事業者は、実際に働く姿を見ているわけではないので、現場の様子や本人の勤務状況などを派遣先の事業者に確認をする必要があります。また、労働者に対しても派遣先で困ったことや悩んでいることなどを打ち明けてもらえるような関係性を築くことが重要です。
人材派遣業を経営するために必要な資格や許可
人材派遣業は、誰でも経営できるわけではありません。人材派遣業として会社を設立するためには、必要な資格や許可を取得しなければなりません。
人材派遣会社の設立を検討している方は、どんな資格や許可が必要なのかを事前に確認しておきましょう。
派遣元責任者の資格が必須
人材派遣業を行うには、派遣労働者100人に対して1人の派遣元責任者を置くことが義務付けられています。人材派遣会社は、派遣労働者の適切な保護を図るために適切な雇用管理をしなければなりません。例えば、派遣先との連絡や日程調整、派遣社員の雇用管理、管理台帳などの作成も派遣元責任者の業務となります。派遣元責任者の資格を取得するには、一般社団法人日本人材派遣協会が行っている派遣元責任者講習を受講する必要があります。
派遣元責任者講習は、主要都市で対面で行われているほか、オンラインでの受講も可能になったので、指定の会場にいけない人でも受講することができます。この資格は3年ごとの更新となるので、その都度、講習を受けなければなりません。
また、資格を取得するための要件は以下の通りです。
・派遣法施行規則第29条で定める要件に沿って、派遣元責任者の選任がされていること
・住所および居所が一定しないなどの生活が不安定でない者であること
・適正な雇用管理を行ううえで支障のない健康状態であること
・他人の精神や身体、自由を拘束する恐れのない者であること
・公衆衛生または公衆道徳上、有害な業務に就かせる行為を行う恐れのない者であること
・派遣元責任者となり得る者の名義を利用して、許可を得ようとする者でないこと
・一定の雇用管理などの経験があること
・派遣元責任者講習を受講して3年以内であること
・精神の機能障害により派遣元責任者の業務を適正に行うにあたって必要な認知、判断、意思疎通を適切に行うことができない者でないこと
・外国人にあっては、一定の在留資格があること
・派遣元責任者が苦情処理などの場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣を行うこと
労働者派遣事業の許可
人材派遣会社として事業を行うには、派遣元責任者の資格が必須であるとともに、厚生労働省から「労働者派遣事業」の許可が必要です。
許可を取得するには、様々な要件を満たしたうえで管轄の労働局へ申請書類を提出します。労働局が書類の審査や事業所の実地調査を行い、問題がなければ許可証が交付されます。許可の有効期限は、新規は3年、更新の場合は5年と定められており、更新申請書類は許可の有効期限が満了する日の3か月前までに管轄の労働局へ提出しなければならないので、忘れずに手続きを行いましょう。
更新手続きには、1事業所当たり55,000円の収入印紙が必要なので、申請書類への添付漏れがないように事前の準備は入念に行いましょう。
労働者派遣事業の要件
労働者派遣事業の許可を得るためには、「資産額」「事務所」「派遣元責任者」「教育・訓練」の4つの要件を満たさなければなりません。
どの要件が欠けていても労働者派遣事業を経営することができないので、この要件はとても重要な項目です。会社を設立する前にある程度は覚えておきましょう。
資金の確保
事業を経営するうえで欠かせないのが資金です。労働者派遣事業を行うには資金に関する以下の要件を満たす必要があります。

②基準資産額が負債総額の1/7以上であること
③自己名義の現金・預金額が1,500万円以上であること
例えば、事業所を4つ設立する予定だとすると、2,000万円×4=8,000万円となり、8,000万円以上の基準資産額が必要となるので、とてもハードルが高いです。
また、1つの事業所だけを所有して、常時雇用している派遣労働者が10人以下の小規模派遣元事業者の場合は、①の金額が「2,000万円以上」から「1,000万円以上」に変わり、③の金額が「1,500万円以上」から「800万円以上」へ緩和されます。
小規模派遣元事業者でも緩和されたからといって、金額のハードルは依然高いままです。そのため、人材派遣会社の設立を検討している場合は、事前に自己資金を計画的に貯めておいたり、資金調達の方法などを検討したりしておく必要があります。
事務所の設置条件
事務所についても広さや設置場所について定められています。事務所は20㎡以上の面積であることが義務付けられています。畳で置き換えると約12帖程度の広さになります。
また、風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律によって規制されている風俗営業の店舗があるエリアには、事務所を設置することができません。
派遣元責任者の資格
前述したように、派遣元責任者の資格保有者の設置が義務付けられています。
派遣労働者100人に対して1人の設置が義務付けられているので、事業所の規模によって配置を行います。また、派遣元責任者は、職業安定行政や労働基準行政、民営職業紹介事業等に3年従事した経験または雇用管理経験が3年以上ある者などの縛りがあります。自分自身が派遣元責任者の要件を満たしていなければ、適任者を事前に見つけておく必要があるので、注意しましょう。
派遣スタッフへの教育や訓練
労働者派遣事業を行うには、派遣労働者に対して教育訓練の機会を提供する必要があります。教育訓練は、最初の3年間は毎年1回行い、その後はキャリアアップの節目に応じて教育訓練を行います。
また、教育訓練の内容は、派遣労働者のキャリアアップに役立つものを提供し、有給かつ無償で実施します。派遣労働者のサポートを行うことも労働者派遣事業の1つといえます。
人材派遣会社の設立の流れ
人材派遣会社を設立するために必要な資格や許可について理解できたところで、会社を設立する流れを確認しておきましょう。
事前に流れを把握しておくことで、計画的に準備を行い、スムーズに手続きを行うことができます。
派遣元責任者講習を受講する
「人材派遣業に必要な資格や許可」の際に説明しましたが、派遣元責任者講習を受講した責任者を事業所へ配置することが義務付けられています。
この講習は、全国の主要都市またはオンラインで開催しているので、それぞれ受講しやすい場所や環境で受講しましょう。受講自体は労働者派遣事業の許可を得るまでのどのタイミングでも問題ありません。ただ、受講する場所や日時によって混雑する可能性もあるので、余裕をもって予約をしておきましょう。
基準資産額を用意する
労働者派遣事業の要件に、「基準資産額が事業所ごとに2,000万円以上」「基準資産額が負債総額の1/7以上」「自己名義の現金・預金額が1,500万円以上」という3つ項目があるので、資金の準備をします。
個人で会社を立ち上げるには、資金面のハードルがとても高いです。もし資金の準備が困難であれば、金融機関からの借り入れも検討しておいたほうが良いでしょう。
会社設立の手続きを行う
人材派遣会社として会社設立の手続きを行います。会社設立が完了するまでに約2~3週間程度かかるといわれています。会社設立は、会社の商号や本店所在地、事業内容などを決定して書類を作成するほか、法人の印鑑作成や印鑑証明書の取得、法人用銀行口座の開設などさまざまな手続きが必要です。
一般的に会社を設立するには以下の書類が必要です。

・定款
・登録免許税の納付用台紙
・発起人の決定書
・取締役の就任承諾書
・代表取締役の就任承諾書
・印鑑証明書
・払込証明書
・印鑑届出書
・登記すべき事項を記載した書面または保存したCD-R
上記の書類を提出して、無事に受理されると会社設立が完了となります。会社設立後は、税務や労務関連の手続きも適切な場所で行う必要があります。会社設立の具体的な流れやその後に必要な手続きに関しては、こちらの記事に記載しているので、あわせてご覧ください。
関連記事:【横浜で会社設立】流れや方法とは?メリットや必要書類について
労働者派遣事業の許可を取得する
会社設立ができたあとは、労働者派遣事業の許可を取得するために申請手続きを行いましょう。申請に必要な書類や手続きの流れは以下の通りです。
[必要書類]
・労働者派遣事業許可申請書
・労働者派遣事業計画書
・キャリア形成支援制度に関する計画書
・雇用保険等の被保険者取得状況報告書
・法人に関する添付書類(定款、履歴事項全部証明書、法人税の納税申告書など)
・代表者に関する添付書類(役員の住民票、派遣元責任者の住民票など)
[手続きの流れ]
①上記申請書類を管轄の労働局へ提出する
②労働局によって申請書類の内容確認や現地調査が行われる
③厚生労働省による審査が行われる
④厚生労働大臣により労働政策審議会の諮問が行われる
上記の流れを経て、問題がなければ労働者派遣事業の許可を取得することができ、人材派遣会社として事業を始めることができます。申請書類の提出から許可が下りるまでに、約2~3か月ほどかかるので、事業を開始するまでのスケジュールを計画的に立てておきましょう。
人材紹介業との違いとは?
人材業界の事業には人材派遣業のほかにも人材紹介業があります。人材派遣業と人材紹介業の大きな違いは、派遣労働者の雇用主です。
そのため、人材派遣業では派遣先企業と派遣労働者の間に直接の雇用契約を結んでいるわけではなく、人材派遣会社と派遣労働者が雇用契約を結ぶ一方で、人材紹介業は採用された人材が企業と直接雇用契約を結びます。
また、派遣先の企業は、人材派遣会社に対して労働賃金に手数料を含んだ金額を毎月支払わなければなりません。人材紹介業の場合は、採用決定時に理論年収の30〜40%の紹介手数料を一括で支払います。企業によっては、紹介手数料のほうが金額が大きくなりやすいため、「派遣のほうが良い」ケースが多く、人材派遣事業のほうが人材紹介業よりも規模が大きいです。
市場規模や必要な資金額を比較しながら、会社設立を検討しましょう。
人材派遣会社の注意点
人材派遣事業を経営する際は、「労働者派遣法の違反」「派遣労働者のトラブル」の2つに注意しましょう。
人材派遣業を営むには、労働者派遣法を遵守しなければなりません。違反をしてしまうとペナルティが課せられてしまいます。派遣労働者だけでなく、自社や派遣先企業を守るためにも、労働者派遣法の順守は必須です。
また、派遣労働者がトラブルを起こすこともあるので注意が必要です。派遣労働者のトラブルは人材派遣会社の責任となるため、派遣先企業との信用関係にも影響を及ぼします。トラブルを起こさないために、就労ルールを定めることや派遣先企業に対する不安・不満などが相談できるような環境づくりが重要です。
人材派遣会社の設立をスムーズに行うために
人材派遣会社を設立するために必要な要件や資格、手続きの流れについてまとめましたが、いかがでしたでしょうか。
人材派遣会社を設立するには、会社を設立するだけではなく、派遣元責任者の資格が必要だったり、厚生労働省の許可が必要だったりとさまざまな手続きが必要になります。派遣元責任者講習の受講から労働者派遣事業の許可を取得して、事業を始めるまでに約3〜4か月ほどかかります。自分自身ですべてを行おうとすると膨大な時間と労力が必要です。
許認可の申請手続きや会社設立の手続きを専門家に依頼することで、負担が軽減されるので、人材派遣会社で起業を検討している方は1度お気軽にご相談ください。無料にてご相談お受けしております。

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