個人事業主でなんとなく帳簿を付けている人は多いです。
売上をいつ帳簿に記載すべきかは、迷うポイントの一つです。そこで今回の記事では、売上が発生した場合の計上に関する考え方の基本である「発生主義」と「現金主義」の考え方や、提供している事業の種類によって異なる売上発生のタイミングについて、帳簿に記入する際の仕訳について解説していきます。
Contents
発生主義と現金主義とは?
発生主義と現金主義は、売上計上の基準を決定するための主要な考え方です。これらの考え方は個人事業主が売上を計上する際にどのようなタイミングで行うかを考える上で基本となる考え方ですので理解しておきましょう。
発生主義について
発生主義はその名の通り、売上が発生した時点でその売上を計上するという考え方です。商品の売買契約の成立や役務を提供したタイミングで売上を計上します。ですから、売上の費用が顧客から支払われているかどうかの有無に関係なく売上を計上することになります。
会計上は商品が販売されたタイミングでその売上を計上し、売掛金として処理します。ただし、売掛金が回収されるまで現金としては計上されません。
この方法は、取引の成立や売上の発生を重視するため、企業の業績をより正確に把握し、将来の売上を見積もるのに役立ちます。
なお、減価償却は固定資産を取得した際の金額を製品の償却期間で割っていきますが、この減価償却の概念は、発生主義によるものです。商品の購入/売却が成立した時点から価値の減少が始まり、費用を減少させる計上方法によって、その時点での会計状況を明らかにします。
現金主義について
現金主義は、現金が実際に受領された時点で売上を計上するという考え方です。つまり、顧客からの支払いが実際に行われた時点で売上を計上します。先に紹介した発生主義は取引の発生した時点で計上するのと対比した考え方といえるでしょう。現金主義は「発生主義会計」や「実現主義」とも呼ばれることがありますが、全て同じ概念の考え方です。
この方法は、取引の実際のキャッシュフローを反映し、企業の現金の流れを重視します。例えば、商品が販売されたが顧客が代金を支払っていない場合は売上を計上しません。代わりに顧客が支払いを行った時点で売上を計上します。
現金主義はその時点での収支の状況と実際に手元にある現金が必ず一致します。そのため帳簿上は売掛金があっても実際には現金が手元になく、仕入れや家賃、給与などが支払えずに会社が倒産する「黒字倒産」が発生することはありません。
現金主義はリアルタイムに収支の状況を把握できるので、会計管理の手間が発生主義に比べると少ないといえます。
現金主義で会計処理をする場合の条件
個人事業主の売上計上は、基本的に発生主義で行います。ただし、以下の条件に合致する場合には現金主義での会計処理が可能です。それぞれ見ていきましょう。
1.現金主義による所得計算の特例を受けている
青色申告でも、あらかじめ税務署に「現金主義による所得計算の特例」を受けていると現金主義での会計処理が可能となります。
2.事業所得や不動産所得がある
不動産所得や山林所得、事業所得があると現金主義での会計処理が可能です。ただし、現金主義での会計処理を行う場合、山林所得だけは現金主義から外れますので注意してください。
売上計上のタイミングは事業によって異なる
個人事業主の売上計上は発生主義と現金主義で分類されるだけでなく、事業によっても異なります。それぞれの売上計上のタイミングについて解説していきます。
商品、製品などの棚卸資産の販売における売上計上のタイミング
商品や製品の販売における売上計上などの棚卸資産の販売とタイミングは、発生主義と現金主義によってそれぞれ異なります。発生主義と現金主義でどのように異なるかを解説していきます。
1. 発生主義に基づく売上計上
会社の利益は、事業年度ごとに総売上から総経費を差し引いて計算されるため、発生主義で売上を計上すると、決算をまたいだ場合に利益が変動する場合があります。
例えば、事業年度が4月1日から翌年の3月31日までの場合は、年度末に確定した売上を3月31日に入れるか、4月1日に入るかによって、その事業年度の利益が違います。
契約の締結日、物品の引き渡し日、代金の回収日が全て同じ場合は、売上の入金時期は明確ですが、通常は日付のズレが生じます。
税法上、棚卸資産の販売による売上は、商品の引き渡し時に設定されます。これによって法人税では引渡基準(企業会計では販売基準と呼ばれます)引き渡しの日は、商品が倉庫から出荷された日や相手の商品を受け取った日などに設定されます。特に決算期にあたる会計年度末は、どの取引を当年度に計上するか、次年度に計上するかで利益が変動し、その年に支払う法人税などの税金にも関わってきますので、注意が必要です。
2. 現金主義に基づく売上計上
現金主義に基づく場合、顧客からの支払いが実際に行われた時点で売上を計上します。この方法では、顧客からの支払いがない限り、売上は計上しません。商品の出荷や請求書の発行は、支払いが行われた後に行われます。この方法は事業者のキャッシュフローを重視するので、現状の事業者のキャッシュフローが正確に反映できます。
したがって、発生主義のように決算年度をまたいだ会計が発生することはなく。発生主義に比べてシンプルに決算を進めることが可能です。
役務の提供における売上計上のタイミング
役務の提供における売上計上は、商品の販売などの棚卸資産の販売とは異なる特性を持ちます。
1. 発生主義に基づく売上計上
役務の提供を発生主義に基づいて計上する場合、役務が顧客に提供された時点で売上を計上します。この方法では、顧客が支払いを行っていなくても売上を計上します。棚卸資産の販売に比べると役務の提供は会計処理がシンプルです。また、未収入金を受け取る際には手形などで処理し、売上として計上します。この方法は、取引の成立や役務の提供を重視し、企業の業績を正確に反映します。
2. 現金主義に基づく売上計上
役務の提供を現金主義で計上する場合、顧客からの支払いが実際に行われた時点で売上を計上します。この方法では、顧客からの支払いがない限り売上を計上することはできません。支払いが行われた後に請求書を発行し、受取手形などで支払いを処理します。この方法は、キャッシュフローを正確に反映します。
例えば、弁護士が法的サービスを提供する場合に現金主義に会計処理を行う場合には、顧客が支払いを行った時点で売上が計上されます。
個人事業主の売上計上の仕訳方法
個人事業主の売上計上の仕訳方法は発生主義と現金主義で異なります。それぞれの仕訳方法について解説していきましょう。
1.発生主義での売上仕訳
発生主義での仕訳は、支払いのタイミングではなく売上が発生したタイミングで行います。例えば、翌月払いの仕入れが発生した場合、発生主義では仕入れをした日に「仕入高」を計上します。そして、翌月に支払うタイミングでは「買掛金」を「現金」で消す仕訳を行います。
(例)
商品を仕入れたタイミング
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
仕入高 |
50,000円 |
買掛金 |
50,000円 |
代金を支払ったタイミング
借方 |
金額 | 貸方 | 金額 |
買掛金 |
50,000円 | 現金 | 50,000円 |
基本的に会計基準は「企業会計原則」に則っており、その中の損益計算書原則で発生主義を規定しています。個人事業主の中でも、青色申告をしている場合には、この企業会計原則に則って仕訳を行うことが必要なので、青色申告の事業主はこの発生主義での売上仕訳を行いましょう。
ただし、小規模事業者でその年の前々年分までの事業所得などの金額(不動産所得や事業専従者給与等の経費を算入せずに計算した金額)が300万円以下の場合には、現金主義での売上仕訳が可能です。
2. 現金主義での売上仕訳
現金主義で売上を仕訳する場合には、売上が発生した時期に関係なく、実際に収入があったタイミングで仕訳を行います。発生主義に比べるとシンプルに処理できるのが特徴です。
仕訳の方法はシンプルで、日時と借方、貸方、摘要をそれぞれ記載します。例としては以下の通りです。
(例)
日付 |
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
2024年3月1日 |
交際費 |
10,000円 |
現金 |
10,000円 |
このように仕入れや、他の費用を支払った時でも同じように計上します。
青色申告の個人事業主は「発生主義」!
今回の記事でご紹介した通り、個人事業主が売上を計上するためには「発生主義」と「現金主義」について理解しておく必要があります。特に青色申告の個人事業主は「発生主義」で確定申告を行う必要があります。
また、売上計上に最適なタイミングは棚卸資産の販売と役務の提供など、業界や企業会計の方法によって異なります。ビジネスにあった売上計上や仕訳をしないとトラブルにつながる可能性がありますので、売上計上をどのように行うべきか迷っている場合には、下記、お問い合わせフォームよりご相談ください。当事務所では、起業したばかりの個人事業主の方々もサポートしております!
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