会社を設立時、資本金が必要になることは理解しているが、「資本準備金」など決算書で使われる言葉はよく分からないという方は多いのではないでしょうか。
これらの言葉を理解することで、今後の経営、資金繰りに関して理解が深まるようになります。
本記事では、資本金と資本準備金の違いやメリット、注意点などを解説していくので、是非参考にしてください。
Contents
資本金と資本準備金とは?
資本金と資本準備金ですが、この違いを明確に説明できる方は少ないでしょう。代表として会社を経営している方にとっては重要な言葉なので、言葉の内容をしっかり理解して経営に生かしていきましょう。
また、資本金と資本準備金を解説していく課程で、「資本余剰金」という言葉も重要になるため、併せて解説していきます。
資本金=創業時の元手の資金
資本金とは、創業時や新規事業の立ち上げなどの運営の元手になる資金のことです。会社設立を行う際に、既に株主がいる場合は、株主からの出資によって、資本金を集めることが可能です。しかし、会社設立時は株主など出資者がいない場合が多く、基本は、個人もしくは発起人が自分自身の貯金から資本金を捻出しなければいけません。
資本金は今後、取引を行う取引先や資金調達を依頼しようとしている金融機関への信用力のアピール材料になるため、極端に少ない場合は、信用を得ることが難しくなる可能性があります。そのため、同業種、同規模の会社の資本金を確認したのち、適切な金額を社内で検討しましょう。
会社法第445条第1項では、「株式会社の資本金の額は、設立、又は株式の発行に際し株主となる者が、当該株式会社に対して払い込み、または給付をした財産の額」と定義されています。資本金は、株主が株式会社に対して払い込んだ資金のことで、会社財産を保護することを目的としています。
以前は、会社を設立するときの条件として「株式会社は資本金が1,000万円以上、有限会社は資本金が300万円以上必要」という決まりがありました。しかし、2006年5月に施行された新会社法によって、企業設立時の資本金額の最低限度の縛りがなくなり、資本金が1円からでも会社を設立することが可能となりました。
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資本準備金=赤字の補填を目的とした資金
資本準備金とは、設立時に払い込まれた資金の中で、資本金として計上をせずに、会社経営を行っていく過程で経営が赤字になった際の補填を目的とするお金のことを指します。
会社法によって、資本準備金の定義は下記から読み取ることができます。
資本金の額及び準備金の額
第445条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込又は給付した財産の額とする。
第2項 前項の払込み又は給付に係る額の 2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
第3項 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上する必要がある。
第4項 剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。
第5項 合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。
引用元:会社法 e-Gov法令検索
例えば、株主から調達した出資金が500万円と設定した場合は、会社法で定める2分の1の金額を資本準備金に充てることが可能になり、250万円ずつを資本金と資本準備金として計上することができます。
もちろん、資本準備金の上限が資本金の「2分の1を超えない額」と定められているため、その金額以下で設定すること自体は問題ありません。万が一のことに備えるための金額になるため、ある程度のネガティブな出来事の想定を立てつつ金額設定を行った方がよいでしょう。
資本剰余金=配当の原資にできる
資本剰余金とは、会社の株式等による資本取引から生じた剰余金から利益剰余金を差し引いた金額のことを指します。簡単に説明すると、資本準備金とその他資本剰余金を合算したものが、「資本剰余金」に該当するということです。
また、資本余剰金は株式会社の株主における配当の原資として認められており、資本金や資本準備金と異なる性質を持ち合わせています。
資本金と資本準備金の違い
資本金と資本準備金の共通点は、貸借対照表の「純資産の部」に計上される点です。そのほかの目的や金額、取り崩しをする際の条件などが異なってきます。
資本金 |
資本準備金 | |
金額 |
株主によって提供された金額 | 株主によって提供された金額のうち、資本金として計上されない金額(資本金の2分の1を超えない) |
目的 |
会社財産・会社の信頼性を外部に示す |
将来的な損失など万が一の場合に備える |
取り崩すとき |
・株主総会の特別決議が必要・登記簿に取り崩しの履歴が残る |
・株主総会の普通決議が必要・登記簿には取り崩しの履歴は残らない |
資本金を取り崩す場合は、株主総会の特別決議が必要となり、登記簿に履歴が残ります。資本金は、会社の登記簿謄本に記載される登記事項であり、損金額などを変更する際には登記の内容も合わせて変更する必要があるなど、縛りが多いので注意してください。
資本準備金は、将来的に起こるネガティブな出来事に対応するための備えであり、取り崩す際も株主総会の普通決議で決定することができ、資本金より手間がなく、手続きを進めることが可能です。
資本準備金のメリット
資本金と資本準備金の違いを説明しましたが、資本準備金を備えることによって3つのメリットがあるので、説明していきます。
赤字の補填ができる
会社の経営状況や社会情勢によって、決算で赤字が発生した際に、資本準備金で補填をすることができます。
赤字に陥ると、経営状況が傾いていると判断されるため、金融機関や取引先、投資家からの信用が低下し、経営にさらなる悪影響を及ぼします。資本金から補填することも可能ですが、株主総会の特別決議が必要であったり、登記されている資本金額の変更が必要になるため、登録免許税などのコストや手間がかかります。
資本準備金の場合は、株主総会の普通決議で赤字補填が可能になるため、手続きによる負担が軽減でき、資本金を取り崩す必要がないため、信用問題についても解決することができます。
節税や税制上の優遇措置を受けることができる
資本金の大きさは社会的な信用力向上につながりますが、一定の金額を超えてしまうと支払う税金額が大きくなってしまいます。しかし、資本準備金に分散し、資本金額を減らすことで節税効果を得ることができます。
消費税に関しては、会社設立時の資本金額が1,000万円未満であれば、設立後2年間は消費税の納税が免除されます。
あまりにも資本金額が少ないと、社会的な信用力の低下を招き、取引を利用することができず、金融機関から融資を受けることができない可能性もあるので、資本金と資本準備金の金額については税理士に相談することが最適です。
関連記事:【徹底解説】会社設立して消費税が免除となる条件とは?
増資の手間を省くことができる
会社の発展に伴い、資本金額を増額し、さらなる信用力を得たいと考える方も多いでしょう。会社の資本金を増額する場合は、以下の2つの方法があります。
- 一般株主から資本の払い込みを募集する
- 資本準備金から一部もしくは全部を資本金に組み入れる
一般株主からの資本の払い込みを募集する方法の場合は、募集を行わなければならず、会社が期待するような結果が得られるとは限りません。そのため、迅速に増資を行いたい場合には、最適な方法とは言えません。
一方で、資本準備金から一部もしくは全部を資本金に組み入れる方法は、株主総会の普通決議で決定することができるので、増額の手間を軽減することができます。
資本金の増額は、会社が成長しているアピールや会社の信用力の向上につながるため、会社の発展を見据えて資本準備金を用意していると安心です。
資本準備金を用意する際の注意点
2006年の会社法改正により、株式会社の資本金の要件が1,000万円から1円に引き下げられたことで、資本金最低金額が事実上撤廃されました。これにより資本準備金の金額には明確な基準が設けられなくなりましたが、現在でも資本金の額が融資や取引において一定の評価基準であることは変わらないので、資本金と資本準備金のバランスを取ることは重要です。
そこで、金額のほかに資本準備金を用意する上での注意点を2つ紹介します。
①事業の種類によって許認可が必要
法人が行うビジネスによっては、国や都道府県などの監督官庁の認可が必要になる場合があります。認可が必要な場合、下記の通り、資本金の最低金額が定められていることがあります。
業種 |
資本金の最低金額 |
有料職業紹介業 |
500万円×事業所数 |
一般労働者派遣事業 |
2,000万円×事業所数 |
一般建設業 |
500万円 |
特定建設業 |
2,000万円 |
多くの会社は、2006年5月に施行された会社法に従い、資本金を1円から申告することができますが、上記の業種に該当する会社に関しては、最低金額の資本金の準備が必要になります。
そのため、上記業種に該当する場合は、確認し資本準備金についても金額を大きくし過ぎずに適切な金額で用意を行いましょう。
②会社の規模が小さく見られる
資本金は登記簿謄本にも記載されており、会社の成長や規模を図る1つの指標になります。第三者が決算書や登記簿謄本を見た際に、会社に払い込まれた金額として認識できるのは資本金額だけになる場合がほとんどです。
資本準備金は、登記簿謄本に記載する必要がないため、社外へ提示できる会社の信用力は資本金のみになります。登記簿謄本から会社の財務状況を判断する場合は、資本準備金については全く考慮されないため、会社の規模が小さく見られる可能性があります。
資本準備金を増減する方法
資本準備金の増減を希望する場合は、それぞれ所定の手続きを行うことで変更することが可能です。増加させる場合と減少させる場合の手続き方法を解説していきます。
資本準備金を増加させる際の手続き方法
資本準備金を増加させる場合の手続き方法は2つあります。
1つ目は、「資本金から組み入れる」方法です。
資本金から資本準備金に組み入れる場合は、株主総会の特別決議が必要になります。特別決議とは、株主総会において決議権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権における3分の2以上の賛成が必要になる決議を指します。
株主総会の特別決議では、資本金額の減少のほかに「譲渡制限株式の買い取り」「譲渡制限株式の相続人への株式売渡請求」「株式の併合」「監査役及び累積投票で選任された取締役の解任」などが決議されます。
普通決議よりさらに厳格に条件が定められています。
2つ目は、「余剰金から組み入れる方法」です。
余剰金から資本準備金に組み入れる場合は、株主総会の普通決議が必要になります。普通決議は特別決議と比較して比較的易しい仕組みで決議されています。
普通決議は、決議県の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権における過半数の賛成が必要となる決議のことです。
普通決議は、そのほかに「取締役・監査役の選任」「剰余金の配当」「役員報酬」「樹子株式取得」などが決議されます。
資本金から組み入れる方法と比較すると、要件が少し緩められています。その理由は、資本金を取り崩すことで株主の方にとっては不利益を被ることになり、簡単に変更することができないような仕組みになっているからです。
資本準備金を減少させる際の手続き方法
資本準備金を減少させる場合の手続き方法は、「株主総会の普通決議」と「債権者保護手続き」が必要になります。
「株主総会の普通決議」に関しては、増加させる場合同様に決議県の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権における過半数の賛成が必要となります。
「債権者保護手続き」とは、会社の債権者に対して「意義があった場合には一定期間以内に述べてください」と伝える手続きです。この手続きは、会社の債権者にとって不利益を及ぼす可能性がある判断を行う場合には、債権者にも異議を唱える機会を与えて、債権者の利益を保護する必要があるためとされています。
資本準備金を減少させる場合では、減少した資本準備金を原資として株主へ配当ができるようになります。配当できるようになると、会社財産が流出する可能性があることから、債権者が債権を回収できなくなるリスクが高くなるため、債権者保護手続きが必要とされています。
債権者保護手続きは、「官報公告に掲載する」「債権者への個別催告」「異議の申し立てがあった場合の対応」といった流れで行われます。
官報公告とは、法令上の義務に基づいて、債権者や取引先などに対して重大な影響を及ぼす事項が決定した際に官報を通じて公的に知らせることです。
債権者への個別催告は、一般的には普通郵便によるはがきや封書で催告が行われ、催告期間を最低1か月は設けなければなりません。
会社を経営して資金繰りを行っていく上で、このような手続きが必要になる場合があることを認識しておきましょう。
戦略的な会社経営を!
いかがでしたでしょうか。
「資本準備金」はあまり馴染みのない言葉だったかもしれません。
登記簿謄本などに記載されることがなく、あまり目立つことのない資金ですが、万が一の出来事があった際の補填の役割や、節税に繋がるなど多くの役割を果たすことが可能です。
一方で登記簿上は資本準備金の記載がなく、実際よりも会社規模が小さく見られ兼ねないリスクもあります。
今回ご紹介した資本準備金は、メリットが多くある半面、注意すべき点もあり、より専門性の高い内容です。自分たちで勝手に進めず、信頼できる顧問税理士に相談すると良いでしょう。
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