決算は、その年の勘定科目の残高を最終確定し、税務署に対して事業年度の収支を報告するための重要なプロセスです。しかし、様々な原因で原価や経費の未計上が発生するケースがあります。
決算申告済みで、原価や経費など計上すべき費用の漏れが発覚した際にはどのように対処すれば良いのでしょうか。
今回の記事では、費用の計上漏れがあった場合の影響や対応策について紹介していきます。
Contents
経費計上漏れが原因で発生するリスク
まずは決算書を作成し、税務署に決算申告した後に経費等の計上漏れが分かった場合の問題点について理解しておきましょう。
決算について
決算とは、企業規模に関係なく事業年度ごとに行われる税務上・会計上の手続きです。決算では事業年度における企業の収益や費用、資産、負債などを詳細に計算し、その事業年度の収支を総合的にまとめた「決算書」を作成します。
決算期は、事業年度の最終月のことをいい、この期間中に決算報告書を作成します。個人事業主の場合は、会計期間が1月1日から12月31日までと定められていますが、法人の場合は会社ごとに任意の決算期を設定することができます。例えば、3月決算の場合は4月1日から翌年3月31日までの期間を集計対象とします。
大きなトラブルに繋がるリスクも
決算書はその年度の事業における収支をまとめた資料で、企業の納税額は決算書に記載されている金額に基づいて算出し、企業の損益によって定められた税率から計算した金額を納税します。したがって決算申告後に原価や経費などで計上していなかった金額があると、申告時と収益や費用が変動し、納税額が変わるなど、様々な対応が必要となってきます。
詳細については後述しますが、経費等の計上漏れを原因として決算を修正すると税務署から適切な会計処理を行っていないと判断され、場合によっては税務調査の対象になる可能性もあります。
経費等の計上漏れがあると、本来ならしなくても良い会計処理や手続きが発生するため、基本的には漏れのないようにしておくことが重要です。
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決算申告後に経費計上漏れが分かった
決算申告後に経費等の計上漏れが起こった場合には決算内容の修正が必要となりますので、その方法について紹介していきましょう。
決算申告後に修正する際には「決算修正」で対応する
「決算修正」とは、確定した決算内容に間違いがあった場合の修正処理を指します。企業会計基準では、基本的に過去の決算書に誤りがあった場合、現在の決算書に直接修正できません。
この基準は「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に基づいており、過去の決算書に間違いが見つかった場合には、過去の決算書を修正するか、過去に正しい会計処理が行われていると仮定して現年度の決算書を作成することが必要です。
中小企業の場合は「前期損益修正益」「前期損益修正損」という勘定科目を使用して決算修正を行うことが可能です。したがって、中小企業において決算申告後に経費等の計上漏れがあった場合には「前期損益修正損」によって決算修正を行います。
前期損益修正損を勘定科目に記入して修正する
「前期損益修正損」は決算修正を行う場合に用いる勘定科目のことです。決算書上での「前期損益修正損」の表記は特別損失の部分に計上されます。これにより、当期の損益と過去年度の修正処理が明確に区分され、正確な財務状態の反映が可能となります。
ですが、「前期損益修正損」は現在期の損益に直接関連する科目ではないため、期間損益計算での取り扱いには注意が必要です。
前期損益修正損の仕訳方法
前期損益修正損を行う場合の事例として、前期に経費計上すべき項目の中で接待交際費の漏れがあった場合の会計処理について説明していきます。
まず、前期に立替えた接待交際費に関する仕訳は行いません。従って、前期の会計処理は次のようになります。
<前期の仕訳処理>
借方:なし
貸方:なし
そして、当期に経費等の計上の漏れが発覚して経費精算をした場合、接待交際費は前期の費用として扱われます。そのため、当期の会計処理は以下のようになります。
<当期の仕訳処理>
借方:前期損益修正損…10,000円
貸方:現金…10,000円
この仕訳により、現金の支出は当期に行われますが、接待交際費の費用自体は前期に関するものとして「前期損益修正損」として計上されます。このように、立替払いされた費用が後になって精算される場合、時期による会計処理の差異を正しく反映させることが重要です。
経費計上漏れを修正した場合の注意点
続いて、決算修正を行う場合に注意を払うべきポイントについて確認していきます。
税務調査の対象になる可能性がある
企業の決算処理において前期損益修正損を何年も連続して行う場合は注意しなければなりません。修正処理が稀なケースであれば問題ありませんが、もし決算書に前期損益修正損が何年も連続して記載される場合、税務署によって適切な経理が行われていないと判断される可能性があります。その結果、税務調査の対象となりやすくなります。
税務調査を受けて決算内容に誤りがあると判断された場合、修正申告の要請や具体的な指導を受けることがあります。
したがって決算書の作成にあたっては、ミスがないよう細心の注意を払い、前期損益修正損の使用をできるだけ避けることが望まれます。前期損益修正を行う場合は、翌年も同じようなミスが発生しないように再発防止策を講じることが重要です。
修正申告を行う必要がある場合も
決算修正が経費等の計上漏れへの対応だけであれば問題ありませんが、売上を前期に計上せず、決算修正を行った結果収支がプラスになる場合、前期損益修正益が発生します。前期損益修正益が発生し、以下のケースに該当すると修正申告が必要となります。
修正申告は、確定申告書を提出した事業年度の収益に関して後から発見された誤りを訂正する手続きで、税務署への修正申告書の提出が必要となります。
- 法人税額の増加:決算修正によって当初申告した法人税額が増加する
- 繰越欠損金の減少:決算修正により繰越欠損金が減少する
- 還付税額の減少:修正によって還付された税額が減少する
このような修正申告を行うと、前期の収益や所得が増加し、それに伴い法人税が追加で発生する可能性があります。また、繰越欠損金が減少した場合や還付された税金を返還する手続きが必要となることもあります。
また、法人税額が修正申告によって増加すると、その増加分に対して延滞税が発生します。この延滞税は7.3%から14.6%の範囲でかかり、増加した税額は本来前期の法定期限内に納税すべきものですが、未納のため追徴されます。
さらに重要なのは、自主的な修正申告を行わずに税務調査を受けて過少申告していると指摘された場合のリスクです。このケースでは延滞税に加え、10%の過少申告加算税が課される可能性があります。また、税務署によって意図的な仮装や隠蔽が認定された場合、35%にも上る重加算税が課される可能性があります。前期損益修正益が発生するようであれば、特に注意しておきましょう。
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ご紹介した通り、決算後に経費等の計上ミスが発覚した場合、適正に会計処理を行うのに比べて多くの会計処理や手続きが発生する可能性があります。また、前期損益修正が原因で税務調査を誘発するリスクもあります。
当事務所では、3ヶ月間のお試し顧問キャンペーンを実施していますのでこの機会にご利用下さい。経費等の計上漏れが起こった場合の対応方法や、税務署対応についてのアドバイスが可能です。決算申告後の修正についてお困りの場合は松原税理士・社会保険労務士事務所までお気軽にご連絡ください(^^)/