法人にかかる主要な税金として法人所得税と法人住民税、法人事業税が挙げられます。
これらの税金はそれぞれの計算方法や税率で納税額が決まりますが、同じ売上げを上げたとしても企業によって納税額が大きく異なります。
納税額の違いは、企業がどれだけ節税対策をしているかによります。節税対策は税務署から提供されるものではないため、企業が独自に判断して採用しなければなりません。
そこで今回は、法人税の節税に役立つ裏ワザについてご紹介していきましょう。
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Contents
法人で節税を行うポイント
まずは法人が節税を行う場合の基本的なポイントについてご紹介していきます。
法人が節税対策を行う理由
法人は所得によって税金が変動しますが、同じ収入でも具体的な条件によって税金は変化します。できるだけ税金を軽減するためには非課税制度や控除制度、免税制度などを利用し、課税対象を最小限にするのが基本です。これらの節税手法は法律や通達で許可されたものであり、合法的に節税することは納税者の正当な権利です。
しかし、納税について税務署に相談しても、特に「この控除が適用可能です」「貴社はこの制度を利用できる可能性があります」といったアドバイスは提供してくれません。
節税のための仕組みが存在していても、それを知らないまま申告し、実際には支払う必要のない税金を支払ったとしても、税務署が指摘するわけではありません。
したがって、納税額は税法に対する理解度によって大きく変わることがあります。だからこそ、節税に対してしっかり知識を持っておく必要があります。
損金を活用すること
法人税法では税務上の収益のことを「益金」、経費や損失の部分を「損金」といい、法人税は税務上の収益から費用を差し引いた課税所得から算出されます。
企業会計でも収益から費用を差し引くことで利益を算出するため、考え方としては費用と同じようなものといえますが、そもそも「会計」と「税務」では用語の定義が異なります。
ですから、損金にできる経費が何かを把握しておくことは、節税において非常に重要といえるでしょう。
損金にできる経費を活用する
続いて、法人税の申告の際に損金にできる経費について紹介していきます。
未払金・未払費用を活用する
決算日後でも経費計上できるものとして「未払金」と「未払費用」があります。
通常、必要経費を損金とするためには、決算の前に支払いを終えている必要があります。
ですが、以下の一定の条件を満たす場合には、未払いの状態でも例外的に「未払金」や「未払費用」が挙げられます。これらは営業活動以外で発生した費用のうち、まだ支払いが済んでいないものを計上するときに使用する科目です。
決算時点で支払いが翌期になる未払金・未払費用があれば、それらの費用を未払計上することで当期の節税対策になり、決算後でも損金に算入することができます。
これらの項目を活用するためには
- 決算日までに支払いの義務が確定している
- 決算日までに支払いの義務に基づく契約をしている
- 決算日までに支払うべき金額を明らかに計算できる
の3点の要件をクリアする必要があります。
未払計上は、翌期に計上するはずだった経費を前倒して当期に計上しているに過ぎません。そのため、翌期の方が売り上げが大きい場合には、結果的に節税効果としては得策ではなかったというケースも起こり得ますので注意しておきましょう。
家族を従業員にして給与を支払う
法人の場合、家族を従業員として雇用して給与を支払うことで企業の利益を減少させることが可能です。同時に、社長の所得税計算においても、配偶者控除や扶養控除を適用することが可能です。その結果、法人税だけでなく、社長個人の所得税も軽減できます。
法人が家族を雇用し給与を支払う方法は、法人の取締役に就任させ、役員報酬を支払う方法と、一般の従業員と同じく雇用契約を結び給与を支払う方法があります。
どちらの方法を採用するかは判断が別れるところですが、法人が取締役に支払う報酬は従業員に支払う給与とは異なる性質を持っており、この違いを理解しておく必要があります。
従業員に支払う給与は雇用契約に基づく「労働の対価」として支払われるのに対し、役員に支払う役員報酬は「株主が会社経営を委任したことに対する対価」であり、本来は仕事内容に対しての報酬ではありません。ですから、家族に労働を任せるのか否かで判断するケースもあります。
ただし、家族に対して役員報酬を支払う場合、金額が業務内容に見合わないと税務署からは「事業に無関係の人物に多額の報酬を支払っている」と見なされることがあるので注意しておきましょう。
中古車を社用車にする
法人や企業は中古車を購入し、減価償却費を計上することで節税が可能です。
中古車をお勧めするのは、新車と中古車では減価償却の期間が異なり中古車のほうが短期間で償却できるからです。特に4年前の中古車は定率法を使用して購入費用を全額償却できるので、大きな利益が見込まれる場合には一度に償却して法人税の支払いを減らすことが可能になります。
また、定額法で減価償却を計算した場合も新車は6年で償却するのに対して中古車は2年〜4年で償却可能です。
例えば新車と中古車を同じ300万円で購入した場合、1年あたりの償却額は新車の場合は50万円、中古車の場合は75万~150万円と中古車のほうが25万~100万円も多く経費処理が可能になり、この金額分だけ節税効果が生まれます。車の購入をご検討の場合、参考にしてください。
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中小企業向けの「小規模企業共済」を活用する
小規模企業共済は、昭和40年に制定された制度で、現在は独立行政法人である中小企業基盤整備機構が運営しています。
この制度は常時使用する従業員が20人以下の個人事業主や企業の役員が加入できるもので、将来の退職や事業終了時に退職金や年金として受け取れる資金を積み立てる共済制度です。掛金は「小規模企業共済等掛金控除」の対象になり損金扱いできます。
小規模企業共済の掛金は1,000円から7万円までの範囲内で月額を選ぶことができ、年間の最高限度額は84万円です。
共済金の受け取り方法には「一括受け取り」「分割受け取り」「一括と分割の併用受け取り」があります。「一括受け取り」は退職所得として、税金上の特典である退職所得控除が適用されます。一方の「分割受け取り」は公的年金等の雑所得として扱われ、公的年金等控除が使えるので、節税と将来の生活資金の積立という2つのメリットがあります。
損金にできる人件費を見直す
損金にできる項目には人件費もあります。どのような項目が挙げられるかを紹介していきましょう。
役員報酬を見直す
法人税を節税するためには役員報酬を損金として計上する必要がありますが、原則的には役員の報酬は損金計上が許容されていません。理由は、役員報酬は経営者が金額を設定するため、節税目的でを減らすために金額を変更することができる可能性があるからです。
ですが、一定の条件を満たせば計上が可能です。
役員報酬を損金にする場合、以下の3つの方法が挙げられます。
1、定期同額給付
定期的に同額の給与を支給する方法です。支給額が事業年度内で同額である必要があります。
2、事前確定届出給与
前もって税務署に申告し、支給する給与の金額や時期が届け出と同じである必要があります。
3、業績連動給与
会社の業績に基づいて報酬が変動する方法ですが、一定の要件を満たす必要があります。
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決算賞与を支払う
決算賞与の支払いも節税には有効です。決算賞与は決算の前後に支給されますが、通常の賞与と同じように損金として計上することができます。そのため、予期せぬ利益があり、急いで節税対策を決断する際に活用されます。
通常、決算直前に決算賞与の支払いを決定することが一般的であり、これにより資金繰りの調整が追いつかないこともあります。しかし未払いであっても、要件を満たす場合には今期の損金に計上することが可能です。
決算賞与を導入することで、大きな節税が期待できます。例えば、税率が35%で、利益が1,000万円の企業が300万円の決算賞与を行った場合、通常の納税では350万円が必要ですが、決算賞与により税額は245万円となり、105万円の節税が可能です。
福利厚生を充実させる
福利厚生を充実させることも節税に繋がります。例えば、従業員に健康診断を受ける機会を提供することが挙げられます
従業員の健康診断受診は福利厚生費として損金計上が可能です。ただし、対象を一部の従業員に限定している場合は、福利厚生費には該当しません。
パートやアルバイトなど正社員以外の雇用がある場合には、労働時間によって健康診断の対象者にするか否かが異なりますので注意してください。
健康診断を福利厚生費として計上する場合、企業が医療機関に直接費用を支払う必要があります。従業員が任意の医療機関で健康診断を受診し、その費用を立て替えてもらう方法では福利厚生費として計上できません。
また、健康診断に支出される費用は一般的な範囲内にとどめる必要があります。高額な健康診断、例えば宿泊付きの人間ドッグなどは、一部の従業員だけが受ける場合、福利厚生費として計上できません。通常の健康診断の費用は1万円から1万5,000円程度であり、理にかなった範囲内の金額に収めるよう留意してください。
他にも、社員旅行の実施もその経費を福利厚生費として損金扱いできます。その場合、以下の点に注意しておきましょう。
1、4泊5日以内にする
所得税基本通達により、旅行の期間が規定されています。全行程が4泊5日を超える場合、その経費は認められませんので、ご留意ください。ただし、海外渡航の際には、外国での滞在が4泊5日以内に限られます。
2、全社員の半数以上が出席する
社員旅行が経費として認められるためには、参加人数や対象者にも注意する必要があります。役員のみが参加する旅行や、参加者が全従業員数の半数以下の場合は経費として認められません。あとで指摘されないよう、参加人数や対象者に問題ないかを確認しましょう。
3、社員の家族の費用は計上できない
社員旅行は、従業員への感謝や従業員同士のコミュニケーション促進を目的として行われます。ただし、家庭の状況や事情により、『家族を同伴したい』という要望が生じることがあります。法的には同伴が認められていますが、同伴者の費用は経費として認められません。そのため、関連する従業員には同伴者の負担をお願いするなどの対応が必要です。
また、『実質的には私的な旅行と見なされる場合』も、経費として認められません。そのため、従業員と同伴者が別行動をするか、または同伴者を含むグループでの行動が必要です。
従業員以外の参加を認める場合は、同伴者の負担が会社ではなく本人にあること、かつ私的な旅行でないことを証明できる手段を用意しておくことが重要です。
社内の様々なルールを見直す
中長期的に法人税の節税を行うのであれば、社内規則を変更することで可能な節税対策がありますので、それぞれご紹介していきましょう。
自宅を社宅扱いにする
社長や役員の自宅を社宅として借り上げることが可能です。社宅の費用を損金として計上でき、これにより節税ができます。
ただし、社長や役員の自宅を社宅とする場合は、あらかじめ社内規程を整備する必要があります。規程がないまま社宅制度を採用すると、会社が特定の社長や役員に便宜を図っていると見なされ、税務調査で不利になる可能性がありますので注意しておきましょう。
出張旅費規定を定めて出張手当を経費計上する
社内規定を変更して行う節税の一つに「出張手当」の支給が挙げられます。
出張の際に交通費や宿泊費とは別に、雑費を補填するために支給される手当のことです。この出張手当は、出張旅費規定に基づいて適正な額を設定することで、損金算入が可能となり節税効果が生まれます。ただし、出張旅費規定を策定する際には、全社員を対象とすることや、金額が同業他社と比較して適切であることに注意する必要があります。
出張旅費規定を作成する手順は以下の通りです。
1、適用範囲を決定する
原則として、出張旅費規程は全社員を対象とする。ただし、社長や役員とそれ以外の社員で支給額に差をつけることは可能。非正規雇用社員やパートなどが出張する場合は、別途記載する。
2、出張の定義をする
出張の内容に応じて、距離や交通手段などを具体的に区別し、出張かどうかを判断できるように定義する。
3、旅費の種類と支給額を規定する
旅費には交通費や宿泊費、雑費を補填する出張日当などがあり、それぞれの支給額を明確に定める。支給方法も実費精算か定額支給かを選択し規定する。
4、出張の手続き
作成した出張旅費規定に基づいて、出張申請や旅費の精算など、必要な手続きを具体的に明記する。
社内の事業を分社化し、別会社を設立する
複数の事業を展開している場合、別の法人を設立することで節税が可能です。この節税効果を享受するには、「中小法人」を設立することが条件です。
中小法人とは資本金が1億円以下の法人を指します。中小法人は大法人と比較して様々な優遇措置があります。
例えば
- 年間所得800万円以下の部分に法人税や事業税の軽減税率が適用される
- 交際費の範囲が広くなる
- 繰越欠損金が控除され、繰戻還付される
- 設備投資に対して優遇措置がある
- 中小法人は法人税と法人事業税が通常の法人よりも低い税率で設定される
などが挙げられます。
ですから、事業の一部を切り離して法人化することで、より大きな節税効果を生み出すことが可能です。
関連記事:会社設立における節税メリットとは?
決算期を変更する
あまり知られていませんが、決算期の変更は何度でも可能です。この決算期の変更を活用して節税することができます。
決算月に多大な利益が出ると、決算後に支払うべき税金が高くなります。節税対策のために決算期を変更し、大きく利益が出た月の計算は翌年に持ち越す、という方法を取る企業は多くあります。節税対策を目的とした決算期変更は、複数の節税対策を組み合わせることでより効果が高くなります。
また資金繰りをコントロールできるようになるのも、決算期変更のメリットです。法人税は決算日の2ヶ月後までに納税する必要があります。そのため、例えば「決算月の真っ只中に大きな利益が出そうだ」と予想できた場合、事業年度が始まる段階で決算期を早めることで、予期せぬ大きな売り上げ分を来期に持ち越せます。
これによって、決算日の2ヶ月後に収めるべき納税額が上がるのを避けることができるのです。売掛金の回収ができるのは、売り上げのあった月の1〜2ヶ月後となることが多いでしょう。そのため、ピークの時期の2ヶ月後くらいが最も資金繰りの良い時期になります。また、期末に現金残が多ければ、来期に向けて資産を購入したり、従業員に賞与を支給することで税金対策も可能です。
法人が節税の裏ワザを使う場合の注意点
様々な法人の節税に関する裏ワザを紹介してきましたが、これらを利用する場合の注意点について紹介していきましょう。
計画的に実施する
節税対策は計画的に実施することが重要です。特に決算が決算が終了したら、次年度の年間の納税・節税計画を策定しましょう。事前に計画をたてることで、納税に必要な資金を確保しやすくなります。
脱税にならないか注意する
今回ご紹介した節税方法は合法的な範囲内にありますが、極端な節税は違法と見なされる可能性があります。適正に節税を実施するためには節税と脱税、租税回避の違いを理解しておくことも重要です。
これまでご紹介したとおり「節税」は法的な税法の範囲内で税金を合法的に減らす行為です。
一方で、「脱税」は故意に課税要件を隠すことです。意図的でなくとも、申告漏れがあれば脱税と見なされる可能性があります。脱税には厳しい罰則が科せられ、場合によっては刑事罰の対象になります。
「租税回避」は脱税ほどではありませんが、法律が意図しない抜け穴を利用する灰色の行為です。合法性が怪しいので避けるべきです。
節税を検討する際は、以下の点に細心の注意を払いましょう。
- 損金として計上できる項目を把握しておく
- 理解しやすい帳簿資料を提出できるように心掛ける
- 分社化する場合は、分社化した会社で事業を実施する
- 社内規定を定める必要がある場合は実施前に定めておく
- 疑問な場合は専門家である税理士に相談する
繰り返しになりますが、法的義務と課税に対して遵守しながら節税を行い、企業の利益を過度に減らさないことが重要です。過度な利益削減や赤字決算は、企業の信用を低下させ、税務署からの注目を引く可能性があります。十分な注意を払って税金対策を実施しましょう。
適切な節税を行うためには、疑問が生じた場合は税理士に相談することが重要です。
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