
個人事業主や中小企業など規模の小さい事業者は、取引先の倒産によって連鎖倒産が起きるリスクを抱えています。そのリスクを回避するために設立されたのが「中小企業倒産防止共済」という制度です。
中小企業倒産防止共済の掛金は、損金や必要経費として算入できるため、節税効果が高いことを知っている方も多いでしょう。
しかし、損益・必要経費に算入できることを知っていても、正しい仕訳方法を把握できているでしょうか。勘定科目を理解したうえで仕訳をしないと、受けられるメリットが小さくなる可能性があります。
本記事では、中小企業倒産防止共済の概要や掛金の仕訳方法、仕訳方法によって何が変化するのかについて解説します。

Contents
中小企業倒産防止共済の概要
中小企業倒産防止共済とは、「経営セーフティ共済」とも呼ばれ、取引先の倒産による連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための共済制度です。この制度は、個人事業主や中小企業を対象としており、資本金が1億円以下であったり、常時使用する従業員数が100人以下だったりと一定の条件が定められています。
法的整理や取引停止処分、災害による不渡りなどで取引先が倒産した場合は、無担保・無保証人で最大8,000万円の借り入れが可能です。毎月の掛金も5,000円〜200,000円の範囲で自由に設定することができ、金額の変更もできるため、経営状況によって掛金を変更しましょう。
ほかにもメリットはたくさんありますが、ここでは中小企業倒産防止共済のポイントを3つ紹介します。
取引先の倒産後にすぐ借り入れができる
取引先の事業者が倒産した際に事業者との取引が確認でき次第、借り入れが可能です。取引先の売掛金が回収できないと自社の売上がマイナスになり、連鎖して倒産する可能性があります。
中小企業倒産防止共済はそういったリスクを回避するために設立されているため、取引先と契約していることが確認出来たらすぐに無担保・無保証人で借り入れることができます。
解約手当金が受け取れる
取引先が倒産していない場合でも、共済を解約すれば解約手当金が受け取れます。例えば、自己都合で解約すると12か月以上掛金を納付していれば、掛金総額の80%程度の解約手当金が支給されます。
経営状況によって、まとまった資金が必要になったタイミングで解約することも可能です。ただし、掛金を納付した月数が12カ月未満だった場合は、掛金が掛け捨てになるので注意しましょう。
節税効果が高い
掛金は全額を損金または必要経費に算入できるため、節税効果が高いです。会社としては何かあったときのためにある程度の資金を貯めておきたいところですが、保有している資金額が大きいと比例して課税金額も大きくなります。
中小企業倒産防止共済を利用することで、保有する資金を減らしつつ、掛金を損金として算入し、何かあった際は解約手当金を受け取ることができます。
また、掛金月額は5,000円〜200,000円の範囲で自由に変更できるため、会社の経営状況に応じて増額・減額が可能です。
そのため、節税対策について検討している中小企業や個人事業主は、中小企業倒産防止共済への加入をおすすめします。
関連記事:【最新】中小企業倒産防止共済とは?メリットやデメリットについて分かりやすく解説
損金や必要経費に計上するための必要書類
共済掛金は、法人の場合は損金、個人事業主の場合は必要経費に算入することが可能ですが、それぞれ算入するには一定の手続きが必要になります。確定申告の際に必要な書類があるので、詳しく解説します。
特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書(別表10 (7))
法人の場合は、「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書(別表10 (7))」という書類を確定申告の際に添付しなければなりません。この別表は、「社会保険診療報酬にかかる損金算入に関する明細書」「農地所有適格法人の肉用牛の売却に係る所得の特別控除に関する明細書」「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」「特定業績連動給与の損金算入に関する明細書」の4つに分けられています。
その中の「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」に共済掛け金についての記載が必要です。記載する項目や内容は以下の通りです。
項目 | 記載事項 |
基金に係る法人名 | 独立行政法人中小企業基盤整備 |
基金の名称 | 中小企業倒産防止共済 |
告示番号 | 空欄 |
当年に支出した負担金等の額 | 掛金の支払金額 |
同上のうち損金の額に算入した金額 | 掛金の支払金額 |
出典:「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書(別表10 (7))」令和6年4月1日以後終了事業年度分
特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書
個人事業主の場合は、確定申告の際に「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」の添付が必要です。
記載するべき項目は法人と同様、「基金に係る法人名」「基金の名称」「当年に支出した負担金等の額」「損金の額に算入した金額」の4つであり、告示番号は空欄で問題ありません。
記入後は、所得税の確定申告書に添付して提出します。
出典:「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」
適用額明細書
適用額明細書とは、法人税関係特別措置の適用を受けようとする場合に、租税特別措置法の条項や適用額、そのほかの次項を記載して法人税申告書に添付する書類です。
適用額明細書を提出するのは、税制の透明性と公平性を確保するためです。また、租特透明化法で法人税関係特別措置の適用を受ける場合は、法人税申告書への添付が義務付けられています。そのため、書類が添付されなかった又は虚偽の内容を記載していた場合は、法人税関係特別措置の適用はないことになります。
しかし、この後に正しい内容を記載した適用額明細書を提出したときは、故意で提出しなかった場合や虚偽の内容で提出した場合を除いて、法人税関係特別措置の適用を受けることができます。
掛金の経理処理方法
掛金は、損金・必要経費に算入できることは理解できたと思いますが、経理としての正しい処理方法ができているでしょうか。
掛金を「資産計上」か「費用計上」の勘定科目によって仕訳の方法が異なります。それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのか理解して、経理処理を行いましょう。
「保険料」の勘定科目で費用計上
中小企業倒産防止共済掛金を費用計上する場合は、「保険料」という勘定科目で処理する方法があります。共済掛金は掛け捨てではなく積立になるため、本来であれば税務上は損金・必要経費にはなりません。しかし、国が加入を促進させるために掛金の全額を損金・必要経費の算入を認めています。
会社によっては分かりやすくするために、勘定科目を「経営セーフティ共済掛金」や「中小企業倒産防止共済掛金」という名目で振り分けても問題ありません。
勘定科目を「保険料」などで処理する場合は、会社の利益が減って見える点には注意が必要です。銀行などで融資を受ける際には、利益剰余金が多い方が銀行からの信用を得やすく審査が通りやすくなります。そのため、融資を受ける際は、銀行から利益余剰金が少ないと判断される可能性があります。
起業したばかりの会社は、融資と共済のどちらを優先させるべきか専門家に相談しながら手続きを行うことをお勧めします。
「保険積立金」の勘定科目で資産計上
掛金を資産として計上する場合は、「保険積立金」の勘定科目で経理処理を行います。共済掛金は、納付した掛金を解約などで引き出すことが可能なため、「保険積立金」として資産計上を行うことが認められます。
共済掛金を12か月以上納付している場合に、解約を希望すると掛金総額の80%程度の解約手当金を受け取れます。さらに、40か月以上納付していれば、納付した全額が解約手当金となります。解約をするとほとんどが返ってくるため、資産科目で仕訳を行うのが会計上正しい経理処理です。
「保険料」として仕訳する場合と異なり、会社の利益が多くなるため、銀行の融資を受けるときにも有利に働きます。
「資産計上をしてしまうと節税効果がなくなってしまうのでは…」と心配になるかもしれませんが、法人税の申告時に減算処理を行うため、損益・必要経費として算入できます。そのため、どちらの仕訳方法でも節税効果が期待できるので、心配ありません。
経理処理方法によって融資審査に影響する
経理の処理には、「費用計上」と「資産計上」の2通りの方法があることが分かりましたが、実際どちらの方法で処理をするべきか分からない方が多いでしょう。
経理の処理方法によっては、融資の審査に影響する場合もあるので、どのような影響があるのか解説します。
「保険積立金」で処理すると決算書がよくなる?
共済掛金を「保険積立金」の勘定科目で経理処理を行うと決算書の内容がよくなります。前述したように、「保険積立金」として処理を行うことで会社の利益が大きくなり、融資を受ける際に有利に働きます。しかし、実際の数字を見てみないとイメージがしづらいという方も多いので、具体的な数字を使って説明します。
[会社の基本的な情報]
資本金:300万円
毎期の税引前当期純利益:150万円
地方税均等割額:7万円
期首利益余剰金:0円
共済掛金額:200万円/年
【保険料として処理した場合】
(-2,000,000)+1,500,000=△500,000
(-500,000)+(-70,000)=△570,000(当期純利益)
3,000,000-570,000=2,430,000(純資産の部合計)
【保険積立金として処理した場合】
1,500,000-70,000=1,430,000(当期純利益)
3,000,000+1,430,000=4,430,000(純資産の部合計)
保険料で処理した場合の当期純利益は57万円の赤字となっていますが、保険積立金で処理した場合は143万円の当期純利益となります。その差は約200万円となるので、中小企業にとっては大きな影響となります。また、貸借対照表にある純資産の部の合計額を比較すると、243万円と443万円となり、こちらも200万円の差が出ます。
そのため、保険料として処理した場合は、200万円が簿外資産となり、決算書は実態よりも悪い状態で記載されていることがわかります。年間だけでも大きな差が決算書に影響を及ぼしているため、何年か経過した後にはさらに金額が大きくなることが予想されます。
決算書の内容が良ければ審査が通りやすくなる
銀行の融資を受けるには決算書の内容が良いものであることが重要です。そのため、共済掛金の仕訳方法の選択も重要で、決算書の内容を左右します。
金融機関は、一定期間の経営成績を示す損益計算書よりも企業の資産や負債、純資産など財務状況が分かる貸借対照表を重視します。決算書をより良いものにするために、共済掛金は「保険積立金」の勘定科目で仕訳を行うことをおすすめします。
中小企業倒産防止共済の注意点
中小企業倒産防止共済を利用するときや損金・必要経費として確定申告するときの注意点があるので、事前に確認しましょう。
制度の改正があったら内容を確認する
中小企業倒産防止共済は、所得税法などが関係しているため、所得税法等が改正されると共済にも影響を及ぼす可能性があります。
2024年3月に公布された所得税法等の一部を改正する法律によって、令和6年10月1日以降に解約し、再度加入した場合は、解約した日から2年経過するまでに支払った掛金は損金・必要経費として算入できなくなりました。
このように加入している事業者にとって重要な変更があるケースがあるため、制度の改正については情報収集を行うか専門家に相談するようにしましょう。
必要書類の添付漏れがないようにチェック
共済掛金を損金・必要経費として算入するには、確定申告の際に「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」や「適用額明細書」の提出が義務付けられています。
これらの書類が添付されていないと、法人税関係特別措置の適用を受けることができないので注意が必要です。
勘定科目や仕訳方法の相談はお気軽に
本記事では、中小企業倒産防止共済掛金の勘定科目や仕訳方法について解説しました。「保険料」や「保険積立金」のどちらで仕訳を行うのか、どのようなメリットがあるのかについて触れましたが、経理処理によってはどのように変化するのか少し理解いただけたのではないでしょうか。
共済掛金だけでなく、ほかの資金についても勘定科目や仕訳方法に悩むこともあるでしょう。税制は経済状況によって変化するため、法改正されることが多く、すべてを把握することは難しいです。
そのため、勘定科目や仕訳方法など税金に関するお悩みがあるときは当事務所へお気軽にご相談ください!
